第115回歯科医師国家試験を見据えて、
最近流行りの栄養、フレイルについて前回まとめきれなかった科目ないし関連事項について、まとめてみようと思います。
まずはこちらの問題について、確認していきましょう。
114回 歯科医師国家試験 必修 問題
114 A-18
老年期のフレイルサイクルを図に示す。
①はどれか。
①→基礎代謝低下→エネルギー消費低下
→食事の低下、食事摂取量の低下→
低栄養→①(以下、繰り返す)
(※図を参考に文字におこした)
a 悪液質
b 廃用症候群
c サルコペニア
d ジスキネジア
d メタボリックシンドローム
解答: c サルコペニア
こちらのフレイルサイクルは
日本人の食事摂取基準2020にも取り上げられているものです。
今回のフレイルサイクルのルートは、
ルート①
サルコペニア→☆基礎代謝低下↓→消費エネルギー量↓
→食欲低下、摂取量↓→低栄養
となっていますが、実は
ルートはもう一個あって、
ルート②
サルコペニア
→☆疲労・活力↓もしくは筋力↓
→身体機能↓(歩行速度↓)
→活動度↓☆
→消費エネルギー量↓
→食欲低下、摂取量↓→低栄養
というものがあります。
ちょっと脱線しますが、この問題の上手いところは、ルート②だと受験生に単純想起させてしまって簡単になってしまうので、ルート①のほうを取り上げて問題を作ったわけですね。賢い。
また、戻ります。
まず、高齢者歯科の観点からまとめてみましょう。
①高齢者歯科
フレイル&サルコペニアと栄養の問題について、
まずは整理していきましょう。
フレイルとは、
要介護に入る前の前段階。
Friedの定義によると、
1体重減少
2主観的疲労感
3日常生活活動量の減少
4身体能力(歩行速度)の減弱
5筋力(握力)の低 下のうち 、
3 項目が当てはまればフレイル。
1〜2 項目が当てはまる場合はフレイル前段階と
なるわけです。
このフレイルの原因の一つにサルコペニアがあり、
サルコペニア→フレイル→低栄養の流れの
フレイルの部分が
前述のルート②
→☆疲労・活力↓もしくは筋力↓
→身体機能↓(歩行速度↓)
→活動度↓☆
の部分に当てはまるわけですね。
そして、低栄養となることでこのサイクルが加速。
高齢者を歯科医院でみるにあたって見かけたことがある
・ふらつき
・転倒による骨折
へとつながり、身体機能障害や要介護状態との関連性へとつながるわけです。
☆転倒→医療事故→訴訟の流れに繋がって
みなさんおなじみの医療事故調査支援センターの問題につながることができますし、
こうならないよう常に患者様への対応に
気をつけるわけです。
(転倒防止のストラップをつけて、スタッフ間で常に注意をはらっている歯科医院も多いようです。)
(補足) 参考問題 111 A-19
患者の「予期せぬ死亡」が発生した場合に、医療事故調査制度に基づいて医療機関が医療事故を報告する先はどれか。1つ選べ。
a 警 察
b 保健所
c 厚生労働省
d 医療事故調査等支援団体
e 医療事故調査・支援センター
解答 e 医療事故調査・支援センター
なので、こうならないよう常に患者さんに栄養をとらせることが大事になってくるわけですね。
(補足)
高齢者の低栄養の要因として以下が挙げられます。
1.社会的要因
独居、介護力不足、☆ネグレクト、孤独感、貧困
2.精神的・心理的要因
☆認知機能障害、うつ、☆誤嚥・窒息の恐怖
3.加齢の関与
嗅覚、☆味覚障害、☆食欲低下
4.疾病要因
臓器不全、炎症・悪性腫瘍、疼痛、
☆義歯など口腔内の問題、薬物副作用、
☆咀嚼・嚥下障害、日常生活動作障害、
消化管の問題(下痢・便秘)
5.その他
☆不適切な食形態の問題、
栄養に関する誤認識、
☆医療者の誤った指導
※ ☆は個人的に国試に関係してそうなところです。
今回は割愛しますが、☆の箇所に関して自分でもう一度確認してみてください。
また、食事摂取基準として、
高齢者(65〜74歳)
身体活動レベルに合わせて、
♂
I→2050
II→2400
III→2750
(単位:kcal/day)
♀
I→1550
II→1850
III→2100
(単位:kcal/day)
☆高齢者(75歳〜)☆
♂
I→1800
II→2100
♀
I→1400
II→1650
(単位:kcal/day)
ちなみに覚えやすいように、
I→ほとんど座って1日過ごす。ベッドから起き上がれない人とか?デスクワーク。
I I→座るには座るけど、通勤、買い物、家事OKな人。(ってことはIADLが平気そうな人だな?!
ここでIADLとかADLがごちゃんな人は、ちゃんと復習しておいてくださいね。)
III→運動良くする人。
と、暗記項目を自分の言葉で、自分がわかりやすい文章にしておぼえたりイメージするのもいいかもしれません。
さらに、カロリーも
2050!2400!2750!はい!覚えた!って、単純に覚えるのもやめてくださいね。
覚えやすいように例えば、1日24時間、2400kcal
それに2400は3の倍数だから プラマイ300で
I→2100、III→2700だな、、って感じでいいんです。 ラフにいきましょう。
ちなみに75歳以上にどうして☆をつけたかは考えてみてくださいね。
「他の科目で75歳、というと後期高齢者だな。。」
ということは医療保険でも問われやすい。
だからこういうよくきくワードについては掘り下げなくちゃいけないな。
という風に連想してみてください。
きっと問題を解くのも楽しくなるはずですよ。
②公衆衛生・口腔保健学
介護予防のために、
最近ではフレイル・オーラルフレイル対策を
かかりつけ歯科医が担当したり、発見する機会が増えてきました。
ですから国家試験でも、これらを重要視する問題が多発。模試でもよく見かけるようになったわけですね。
少し、ここのへんに関してもまとめてみましょう。
まずは、オーラルフレイルの概念図を参考に
字面に書き起こしたこちらについてまとめてみましょう。
第1レベル :口の健康リテラシー の低下
(原因)
・社会的フレイル
・精神心理的フレイル
・自発性の低下
(結果)
・不十分な口腔健康への関心
・歯の喪失リスクの増加
第2レベル:口のささいな トラブル
(原因)
・滑舌低下
・食べこぼし
・噛めない食品の増加
・むせ
(結果)
→食品多様性と食欲↓
第3レベル:口の機能低下
(俗に言う、これが☆口腔機能低下症として保険で点数がとれるものです!!)
(原因)
・口腔不潔・乾燥
・ 咬合力低下
・口唇・舌の機能低下
・咀嚼機能・ 嚥下機能低下
(結果)
→低栄養・サルコペニア
第4レベル:食べる機能の障がい
(原因)
・咀嚼障害
・摂食嚥下障害
(結果)
→栄養障害、運動障害→要介護に!!
cf.オーラルフレイル概念図 2019年版 出所:公益社団法人日本歯科医師会「歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版」
このレベルごとにぼくたちは患者さんに接していくことが求められているわけです。。
①レベル1: 口の健康リテラシー の低下に対して
1.後期高齢者に対する保健事業
〜都道府県後期高齢者医療広域連合からの
市町村委託〜
これに対しては、フレイル予防として
歯科医師は、集団教育をDHを派遣することで
・口腔健康に関するおはなし
☆お口の体操の指導(嚥下体操とかですね!
これに関しては別の回でリハビリをまとめていこうと思います。)
・歯科医療機関への受診勧告
を
後期高齢者を含めた
☆すべての高齢者に対して行っていきます!
自己啓発セミナーのような感じです。
2.介護予防・日常生活支援総合事業
基本チェックリストに
☆該当しないすべての高齢者☆を中心に
集団教育、運動栄養口腔を組み合わせた
☆介護予防教室を何回かおこないます。
つまり、歯科医師は運動、栄養についても
指導しないといけない!ということでしょうね。
実施主体:市町村
対象者:65歳以上のすべての高齢者
事業内容:口腔の介護予防に関する教室、
講演会実施、パンフレット作成などなど。
②レベル2: 口のささいな トラブル
ここからが肝心です。
1.後期高齢者に対する保健事業
これはレベル1と同様です。。
2.介護予防・日常生活支援総合事業の
介護予防・生活支援サービス事業
通所型サービスC、短期集中予防サービス
これが大事です!!
ここでは、
☆基本チェックリスト該当者、
要支援者を対象者で、
3〜6ヶ月間、口腔機能向上のためのプログラムを
DH、ST、RDたちによって通所の形でうけるか、
もしくは歯科医院に紹介して個別で指導をうける、、といったものです。
ここで、基本チェックリストについて確認を軽くしておきます。
☆基本チェックリスト
ざっくりまとめると、65歳以上の高齢者が介護予防にならないようにチェックリストを回答して
それに合わせた施設で管理していく、、というものです。
項目として、
((ADLやIADL!))
・バスや電車で、一人で外出していますか
・日用品の買い物をしていますか
・預貯金の出し入れをしていますか
・友人の家を訪ねていますか家族や友人の相談にのっていますか
((運動、転倒関係!))
・階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか
・椅子に座った状態から何もつかまらずに立ち上がっていますか
・15分位続けて歩いていますか
・この1年間に転んだことがありますか
・転倒に対する不安は大きいですか
((栄養))
・6ヶ月間で2kgから3kg以上の体重減少がありましたか?
身長(cm)と体重(kg)およびBMIは?
☆口腔☆
・半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか
・お茶や汁物等でむせることがありますか
・口の渇きが気になりますか
((引きこもりしてない??))
・週に1回以上は外出していますか
・昨年と比べて外出の回数が減っていますか
((認知機能))
・周りの人から「いつも同じ事を聞く」などの物忘れがあると言われますか
・自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか
・今日が何月何日かわからない時がありますか
((鬱、精神的))
・(ここ2週間)毎日の生活に充実感がない
・(ここ2週間)
・これまで楽しんでやれていたことが楽しめなくなった
・(ここ2週間)以前は楽にできていたことが今はおっくうに感じられる
・(ここ2週間)自分が役に立つ人間だと思えない
・(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
といったように質問項目を分類することができ、
☆☆今後は問題にこの項目が並び、
どれにあてはまるか?何を求めているのか?
この項目に問われたら、どこへ紹介し、
歯科医師としてどういった対応をせまられるのか。。☆☆
といったことを予想しながら問題を作ったり、
知識を深めていけるとさらにいいですね。
☆ちなみに口腔の項目、
☆口腔☆
・半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか
・お茶や汁物等でむせることがありますか
・口の渇きが気になりますか
に関しては、
2項目以上で口腔機能低下と判断できるので覚えておきましょう。
1項目のみであれば嚥下体操など結局、自己啓発的な対応とかになりそうですよね!!
これに関して判断させてどう処理していくかみたいな問題が作られてもおかしくはないです。。
☆☆☆☆☆
③ 第3レベル:口の機能低下に対して、
これが今回の一押し、です!
1.後期高齢者に対する保健事業 (都道府県後期高齢者医療広域連合からの市町村委託)
市町村がDH、ST、RDたちを在宅等に
派遣(☆アウトリーチといいます!)し、
個人ごとの課題に応じた助言や指導を行います。
低栄養状態や誤嚥性肺炎のリスクが高い方、
閉じこもり傾向の人、
後期高齢者の質問票内容、
要介護度、
歯科通院状況
といったものについて該当者に対して
アウトリーチしていきます!
・実施主体
→市町村(都道府県後期高齢者医療広域連合からの委託事業)
・対 象 者
→市町村が設定した抽出基準に該当した人
・事業内容→歯科衛生士を在宅等に派遣し、口腔の課題に応じた助言指導。
訪問歯科健診事業や訪問歯科診療を行う歯科医療機関との連携もおこないます!
2.後期高齢者の被保険者に係る訪問歯科健診
対象者
医療機関への通院がむずかしく、
歯科健診を受診できない
後期高齢者医療制度の被保険者
歯科医師による訪問歯科健診を実施することができます。
・実施主体
→後期高齢者医療広域連合による
直接実施または市町村(広域連合からの委託事業)
・経費負担→
後期高齢者医療広域連合が負担(市町村に委託実施する場合)
・対象者
→通院による歯科受診がむずかしい
☆要介護3以上の後期高齢者医療の被保険者
・健診内容
→問診、口腔内診査、口腔機能の評価などなど!
そして、この問診ですが、
口腔機能低下症といったものを診断するのに
特に大事です。
今回の114回歯科医師国家試験では、
この口腔機能低下症の検査項目の検査の
グミゼリーは今回の出題委員の先生が導入したみたいです。
なのでここについてもいずれは整理してみてもよいでしょう!
〜口腔機能低下症〜
口腔衛生状態不良
口腔乾燥
咬合力低下
舌口唇運動機能低下
低舌圧
咀嚼機能低下
嚥下機能低下のうち,
3 項目以上該当する場合に口腔機能低下症と
名付け、6ヶ月ごとに再評価を口腔機能精密検査を行って治療を進めていきます。
〜口腔機能低下症の項目について〜
・口腔衛生状態不良
→ 舌苔の付着程度 50%未満!
舌を9分割して自分なりに舌苔の評価を
してみよう!
・口腔乾燥
→ 口腔粘膜湿潤度27未満!!
唾液量 →2g/2分以下!!!
(ムーカスなど、機械をみてなんの検査に
使うものかもう一度確認しなおそう!!)
・咬合力低下
→ 咬合力検査:200N未満!(プレスケール)
残存歯数:20本未満!(cf.8020運動)
プレスケールに関しては、
※高齢者の出題委員の先生が大学の
近くの住民に対してコホート研究して
咬合力とフレイルの研究をしていたので
注意しよう。
・舌口唇運動機能低下
オーラルディアドコキネシス
/pa/ 回/秒
/ta/ 回/秒
/ka/回/秒
どれか 1 つでも, 6 回/秒未満
(補足)
113回歯科医師国家試験
113 D-27
オーラルディアドコキネシスで評価するのはどれか。1つ選べ。
a. 弾 音
b. 通鼻音
c. 破擦音
d. 破裂音
e. 摩擦音
正解 d 破裂音
・低舌圧→舌圧検査
30kPa未満 100mg/dL 未満
※舌圧くんも、もう一度おさらいしたおこう!
・ 咀嚼機能低下
→ 咀嚼能力検査100mg/dl未満!、
咀嚼能力スコア0、1、2!!!
(先程のグミゼリーです!写真でみてどれくらいの
大きさがスコア0、1、2に当てはまるか確認しておきましょう!)
(補足)
嚥下訓練食は今回、
114 A-38でも問われたことがあり、
これも関連事項として確認しよう。。
cf. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会の
嚥下調整食分類2013
・嚥下機能低下
→嚥下スクリーニング検査 (EAT-10) 3点以上!、
自記式質問票 (聖隷式嚥下質問紙)
※こちらの質問項目についてもチェックリスト同様まとめておこう!
3 項目以上該当で「口腔機能低下症」と診断と
する!!!
※診断までが歯科医師の仕事ではなく、
その後管理計画書を記載して管理を継続
していくことが急務である。
まず、以下の全身の状態についてチェック。
1 基礎疾患
2 服用薬剤
3 意識レベル
4 認知機能低下
5 肺炎の既往
6 体重の変化
7 体格指数(BMI)
8 食事形態
9 食思不振
続いて、口腔機能の状態!
口腔機能低下症の上の項目に加えて、
歯・歯肉の状態が
プラーク付着があるのかないのか?
歯肉の炎症はあるのかないのか?
歯の動揺があるのかないのか?
口腔内・義歯の状態はどうなのか?
についても管理していく必要がある。
また、口腔機能管理計画についても、
1 口腔内の衛生
2 口腔内の乾燥
3 咬む力
4 口唇の動き
5 舌尖の動き
6 奥舌の動き
7 舌の力
8 咀嚼の機能
9 嚥下の機能
の9項目が、
☆☆問題ないのか?
機能維持を目指すのか?
機能向上を目指すのか?☆☆
((個人的な感想))
今後の国家試験の臨床問題は
写真で所見を取らせた上で
口腔機能低下症に対しては、
選択肢に機能維持でいいのか?
向上すべきか?問題はないか?
などなど、、
しっかりと歯科医師として治療方針を固めることができる力が問われるようにぼくは思います!!
以上、長くなりましたが今回はこの内容で終わりにします。
受験生のみなさんも、自分なりに栄養やフレイルに関してホットな話題、まとめてみてくださいね。
また、実際に問題を解きながら他にはどんな疾患が考えられるのか生徒と先生が話し合いながら一つの問題からたくさんのパフォーマンスを引き出し、歯科医師国家試験という連想ゲームを楽しみながら受験生活を送ることが出来るかと思います。