第107回(2014年)頃から、新卒・既卒を合わせた合格率がそれまでの70%代から60%代に10%ほど大きく低下してから前回まで64%前後を推移しており、今回も同程度の合格率が考えられます。
近年の国試の傾向として、問題の難易度自体はあまり変わらないものの、タキソノミーが高く、より深い知識を問われる問題が多く見られます。大昔の➀疾患名を問うから、少し前の②治療法を問うから、近年は③治療法の副作用、注意点、患者に説明すべき点などより実践に即した知識が必要となります。
本年度の国家試験は、前回が非常に難しいと言われたため、若干易化すると予想できました。
結果、予想通り昨年と比較した難易度で言うとやや易化、例年と比較するとやや難の難易度であったと言えるでしょう。
現時点での合格ボーダーは不明ですが、昨年度と比較して、その分、前回よりも合格基準点が若干上がる可能性があります。
また今年の特徴としては、高齢者の歯科治療、全身疾患、歯科関連法規、比較的新しいとされる歯科治療法の特徴、医療人としての常識を問う問題(時事問題など)、科目の枠にとらわれない複数の科目の知識を複合的に使う問題が多く出題されました。
また多選択肢の問題や計算を要する問題もあり、単に暗記に頼った勉強や、実習をしっかりしていないと対応できず苦戦した学生も多かったように思います。
■必修問題
全体的な難易度は8割を正答することを考えるとやや難しいレベルでした。よって、昨年ほどではないにしろ採点除外の問題が複数問あると考えられます。内容としては歯科関連法規、一般的な診査・診断法、高齢者歯科、患者対応、地域医療、全身疾患、医療管理などの問題があり、比重として科目横断型の問題や隣接医学、医療人として一般常識を問うていると思われます。対策としては基本的な思考力を普段から身に着けるようにし、実習などを通して、それぞれの内容の目的、注意点等を常に深く考える必要があり、歯科医師としての最低限の医事に関する情報は取得しておかなければなりません。
■一般問題
例年同様に難易度はやや高く、場合によっては消去法も用いて選択枝の中で最も適したものを選ぶ応用力と広く深い知識が必要であったと思います。特に社会歯科領域では介護保険制度や地域保健法・ブラッシング法・健康増進に関する問題など幅広い知識を問う問題が多く見られました。保存領域で急性症状と治療法・重症度とそれに適した治療法の選択・歯面処理・歯周外科など実際の治療の手技を問う問題が多く出題されました。補綴領域では部分被覆冠の形態・マージン形態・義歯の調整に関する問題などそれぞれの場面に適した設計を問う問題が出題されました。それぞれ正しい理解を必要とするため正答率が低くなることが予想されます。単に重箱の隅をつつく様な問題の量は少なくなったので難易度はやや易化しましたが、考えさせる問題が増えた分、できる学生とできない学生の差が拡大する可能性があります。矯正、小児、外科、放射、麻酔、薬理に関しては例年通りの難易度だったと思いますが、深い理解を必要とする問題も多かったので、暗記一辺倒の学習では苦戦してしまうでしょう。全体的な難易度として近年と同様と考えられます。
■臨床実地問題
臨床実地問題の傾向は昨年度の国家試験と同様に、実践的かつ深い知識を問う問題が多く見られました。特に補綴領域の義歯設計・インプラントの構造などの治療の順序を問う問題が多く、実際見たり行ったことがないと正答を選ぶのが難しい問題がありました。外科領域ではレントゲン、病理組織などからその疾患を考え、治療法、リスクまで問う問題がありました。保存領域ではマイクロを用いた問題や偶発症、歯の外傷の治療法、歯髄保護に関する問題が出題されました。また心電図などの苦手な学生が多いとされる範囲や、口腔機能検査に関する問題が出題され、模擬試験の復習をきちんとしていたかどうかもカギになりました。いずれにしても相当量の知識を有している必要があり、日々の勉強や臨床実習での経験を通して知識を習得し、それらの知識を問題に応用して使いこなすトレーニングが必要です。それぞれの領域の合格基準は例年と同程度と予想されます。
■まとめ
先述しましたが、昨年と比較するとやや易化、例年と比較するとやや難しめの難易度であると言えます。また、実践的な問題、新傾向の問題、全身管理、医療に関する時事問題が増え、次年度は更なる難化が予想されます。本年度の傾向的にも昨年と同様に単なる暗記や教科書的知識だけでは通用しない問題が多々見受けられました。これは、臨床現場が即戦力となる歯科医師、そしてそれに見合った医療人としての常識を求めている証拠です。よって、日々の教科書的学習をベースに、それらの知識をうまく繋ぎ合わせ解答を導き出すトレーニングが必要です。臨床実習で実際に体験して、学んだ情報は定着しやすく臨床問題を解答する上での大きな武器となります。ただ教科書的暗記の勉強法は基礎を作るために絶対不可欠なものなので、決して蔑ろにすることなく、それらの知識をベースとした更なる能力向上が必要であるということを忘れないで頂きたいと思います。知識不足の状態で応用問題に挑戦しても正解を導くことができませんし、充実した臨床実習を行うことは出来ません。このようにやはり歯科医師国家試験の勉強を始めるにあたっての最優先事項は知識の定着です。早期の知識定着を図り様々なタイプの応用問題に挑戦することで臨機応変に解答を導き出す力を伸ばすことができると思います。
歯科医師国家試験の勉強を通して、社会に必要とされる歯科医師になろうではありませんか!